| [2025_11_29_06]老朽美浜原発の差し止めを認めず 老朽原発美浜3号機仮処分抗告棄却決定を批判する 今後増大する老朽原発の稼働に司法はどうあるべきか 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2025年11月29日) |
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04:00 11月28日、名古屋高裁金沢支部第1部(民事)(大野和明裁判長、升川智道裁判官、山田兼司裁判官)は、関西電力(関電)の老朽原発である美浜原発3号機の運転差し止め仮処分の即時抗告申立てを棄却した。 本決定は、原子力災害の深刻さ、老朽原発の構造的脆弱性、過去の判例が示した司法審査の在り方、そして新規制基準の本質的限界についての理解を著しく欠いた、到底「司法判断」と呼ぶに値しないものである。 むしろ、判決文全体に一貫しているのは、電力事業者と規制委員会の判断を金科玉条のように扱う無批判な姿勢であり、司法が果たすべき機能を全面的に放棄していると言わざるを得ない。 1 過去判例の司法判断を完全に踏みにじる決定 まず、1992年の最高裁判決が明示した「原子炉設置許可における不合理性の立証責任の転換」という、極めて重要な原則を本決定は理解していない。 最高裁は、原発の立地・建設という、行政側が資料と専門情報を独占し、原告住民側は証拠を提出できないという構造が支配する現実を踏まえ、被告行政庁側に「不合理でないことの主張・立証」を求めると判示した。この趣旨は、原子力行政の構造的非対称性に対する極めて合理的な司法判断である。 ところが本決定は、まるで電力会社と規制委員会の判断が自動的に「合理的」であるかのように扱い、抗告人側の指摘をことごとく退けている。これは司法の役割を完全に取り違えた姿勢であり、最高裁判例の趣旨を真逆に理解したものと断じざるを得ない。司法による審査を行政による判断の追認作業と誤解しているのであれば、それはもはや「訴訟審理」ではなく「免罪符」である。 2 老朽原発の危険性についての無知・無理解 美浜原発3号機は、運転から40年を大きく超えており、そろそろ50年になる典型的な老朽原発である。 世界的に見ても50年超運転は異例である。全416基のうち44基が50年を超えているが、そこに高浜の2基が含まれており、美浜3号機を加えると上位46基のうち3基が関電の原発だ。 世界では老朽炉の閉鎖が進む中、日本の原発が数多く老朽化しているのに敢えて延命して運転を強行している事情を、裁判所は全く理解していない。 老朽化によって設備の劣化が不可避であること、溶接部や配管類の劣化進行速度を正確に予測する手段が存在しないこと、そして実際に高浜4号機や大飯3号機、さらには美浜3号機自身で重大な劣化・損傷が相次いで発覚している現実を、本決定は完全に軽視している。 裁判所は「点検が可能である」ことをもって安全と断じているが、これは論理の飛躍というレベルを超えて、危機認識の欠如そのものである。点検「できる」ことと、安全が「保証される」ことは全く別次元の問題であり、老朽化の予測不可能性は世界の専門家が繰り返し警告してきた事実である。 本件減肉事故のように、定期点検後わずかの期間で深刻な減肉が発生した事実は、老朽化が予測不能であることの強烈な証拠である。にもかかわらず裁判所は、これを「安全性を覆すものではない」と一蹴している。この判断は、事実認識、科学理解、安全工学の基礎すら欠いており、司法判断として許されない無責任さである。 3 新規制基準を絶対視する致命的誤り 本決定の最大の欠陥の一つは、新規制基準の適合性審査を「安全」の証明であるかのように扱っている点である。 新規制基準は、東電の福島第一原発事故を受けて制定されたものの、「できる限りの対策を義務づけた」ものではなく、「事業者が取り得る範囲の対策を求めた」にとどまる、緩やかな基準である。規制委員会自身が「新規制基準への適合は原発の安全性を保証するものではない」と繰り返し明言してきた事実を、裁判所は知らないのか、知っていて無視したのか、いずれにせよ重大な認識欠如である。 さらに、美浜原発3号機の基準地震動は933ガルだが、現実に発生してきた地震の観測実績から見ても、明らかに低すぎる。1000ガル超の地震が、昨今全国で頻発している現実や、不確かさの考慮が全く満たされていない点など、抗告人の指摘は科学的知見に基づく極めて正当な批判である。 ところが裁判所は専門的論点を十分精査することなく、事業者と規制委の主張のみを鵜呑みにしている。これは、科学的争点の裁判所による放棄に等しい。 4 避難計画の軽視は、司法判断の倫理的破綻である 本決定は、深層防護第五層である避難計画の不備を「差止めの根拠たり得ない」と退けている。しかし、原子力災害対策特別措置法は避難計画を国民保護の中核に据えており、どれほど設備対策を施しても、避難不能であれば住民の生命は守れない。 福島第一原発事故は、事故「後」の対応の不備こそが被害を拡大させた事実を示している。避難計画が破綻していれば、他の階層が機能しているかどうかを問わず「安全確保は不可能」である。この原則は国際的な常識であり、本決定の態度は国際基準からも逸脱している。 5 決定は司法による国民の生命に対する背信である この決定は、行政と事業者の主張をそのまままるごと受け入れ、住民の生命・安全を守る司法の最も根源的な使命を完全に放棄している。 事業者の説明の不十分さ、老朽化の不確実性、地震動評価の過小評価、避難計画の破綻の蓋然性。これらすべてを司法が自ら無視したという意味において、この決定は単なる誤判にとどまらず「危険な判決」とさえ言わなければならない。 司法が、このような姿勢をとり続ければ原発事故の再発を防ぐ最後の砦は完全に崩壊する。 本決定は、国民の生命を守る責務を放棄した、著しく不当で非合理な決定である。これは直ちに是正されるべきものである。 |
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