[2025_12_05_04]「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故から30年、事業費1兆円投じ運転わずか250日間で廃炉に…識者「建設・管理のノウハウ継承を」(読売新聞2025年12月5日)
 
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「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故から30年、事業費1兆円投じ運転わずか250日間で廃炉に…識者「建設・管理のノウハウ継承を」

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 日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)でナトリウム漏れ事故が発生してから、8日で30年となる。事故後もトラブルが相次ぎ廃炉となり、廃炉作業は20年以上先まで続く。一方、敷地内では新たな研究炉を建設する動きもある。事故後の現状を報告する。(村上和史、伊藤孝則)

 1994年4月、もんじゅは原子炉内で核分裂反応が連続して起きる「臨界」に達した。消費した以上のエネルギー源が得られることから「夢の原子炉」と呼ばれた。まだ実用化前の試作機に当たる段階だが、95年8月には発電を始め、順調なスタートをきったかに見えた。だが、その年の12月、試験運転中にナトリウム漏れ事故が発生した。

 配管内に取り付けた温度計が破損し、原子炉の冷却材として使っていた「ナトリウム」が漏れ出し、火災が発生した。ナトリウムは大気中で発火しやすく、温度管理のために設置していた温度計周辺部の設計ミスが主な原因だった。
 当時の運営組織が事故現場を撮影したビデオ映像の一部を隠蔽(いんぺい)したほか、その後も機器の点検漏れなど相次ぐトラブルが起き、政府が2016年に廃炉を正式決定した。事業費約1兆円を投じ、原子炉を運転させていたのはわずか250日間だった。

 廃炉作業では、22年に原子炉内の核燃料を全て取り終えた。今後は関連施設や原子炉の解体を進めつつ、ナトリウムなどを国外に搬出させていく計画だ。
 作業の終了予定は47年度。機構の担当者は「現状で遅れはない。予定通りに全ての作業を終えたい」と話す。

 政府は、次世代原子炉(次世代炉)の一つで、ロシアや中国を中心に各国で加速している高速炉の開発を進める考えだ。
 高速炉は、プルトニウムなどの放射性物質が、核分裂した際に飛び出す高速の中性子を利用し、核分裂が継続するようにした原子炉だ。一般的な原子炉(軽水炉)よりもプルトニウムなどを効率的に燃やせる。

 日本は、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して再利用する「核燃料サイクル」政策を進めるために、もんじゅの廃炉が決まった後も高速炉の研究を続けている。
 高速炉に詳しい東京都市大の高木直行教授(原子炉物理学)は「日本は米国など他国と組んで高速炉開発を進めようとしている。今後技術を確立していくためにも、もんじゅを建設・管理したノウハウを若い世代に継承していくべきだ」と指摘する。

 研究炉の整備検討

 もんじゅの廃炉作業が進められる敷地内では、人材の育成や中性子を使った研究を進める「試験研究炉」の整備に向けた検討が行われている。
 京都大や福井大、日本原子力研究開発機構などが連携し、新たな研究炉の詳細設計の議論や敷地周辺の活断層調査などを進めている。

 研究炉は原子炉を稼働させるノウハウなどを学ぶだけでなく、生命科学や新素材の開発など様々な分野でも活用される。だが、大学の研究炉は現在、京都大と近畿大の2か所しかない。大阪府東大阪市にある近畿大原子力研究所の原子炉「UTR―KINKI」(熱出力1ワット)は学生の実習に加え、高校生や教員が運転を体験できる。同府熊取町の京大複合原子力科学研究所には「KUCA」(同100ワット)と「KUR」(同5000キロ・ワット)の2基の原子炉があるが、KURは来年5月の運転終了が決まっている。

 新たな研究炉や付属する実験装置への期待は大きく、京大などの連携組織は2030年代の完成を目指す。京大新試験研究炉開発・利用センターの杉山正明センター長(京大教授)は「研究目的で中性子を扱える施設は世界的にも少ない。研究開発のスピードを上げるためにも検討を進める」と語る。
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